狂想曲
奏ちゃんが、ホットの缶コーヒーふたつを手に、戻ってきた。
そして私にそのうちのひとつを手渡し、私の隣に同じように座り込んで、自分が持っている缶コーヒーのプルタブを開ける。
手に持つ缶コーヒーのあたたかさが身に沁みて、私は、また泣きそうになった。
「ねぇ、奏ちゃん」
「んー?」
「この世界は、選ばれた1割の人間が動かしてるんだって。で、残りの9割の私たちは、ゴミ虫なんだって」
「………」
「私たちの存在って、その程度なのかな」
奏ちゃんは、自嘲するように言った私を一瞥し、
「でも、革命はいつも、“残りの9割の人間”が起こすものだ。それにこの世界は誰のものでもない。誰のもでもないってことは、つまり、みんなのものでもあるってわけさ」
答えになっているのかいないのか、馬鹿な私じゃその意味をよく理解できない。
満身創痍。
このまま眠れば私は死ぬのだろうか。
「律。寝ちゃダメだ。しっかりしろよ」
奏ちゃんは私の体を揺する。
眠ることすら許されなくて、でももう痛みは極限を超えた。
その時だった。
「よう、犯罪者。やっと見つけた」
顔を上げると、横の奏ちゃんは「遅いんだよ」と人影に毒づく。
あぁ、私は、この人まで巻き込んでしまったのか。
「キョウ……」
キョウが、咥え煙草でこちらへと歩み寄ってきて、
「大体の話は奏から聞いたけど。ひでぇな。大丈夫か?」