狂想曲
まさか奏ちゃんが、キョウに電話をしていたなんて思いもしなかった。

少し前まではあれほど互いを嫌悪していたふたりなのに。


でも、今は、そんなことも言ってられない状況ということだろうけど。



「電話してからどんだけ経ったと思ってんだよ」

「いきなりあんな電話もらった俺のことも考えろっつーの。ったく、無茶しやがって」


キョウは私の反対隣に腰を下ろした。



「しかしまぁ、俺が奏でも同じことしてただろうけどな」


雨が、地面に水玉模様を描き始める。

それに混じり、どこからか、うわんうわんとサイレンの音が響く。



「キョウには無理でしょ」

「はいはい、また出たました。奏の、自分の方がすごい発言」

「馬鹿にしやがって。本当のことだろ」


ふたりは私を挟んで、互いに別方向を向いたまま、言い争う。

こんな時なのに、緊張感は欠片もない。


私は、眠りたいのに眠れなかった。



「『本当のこと』って、奏が何の『本当』を知ってんの」

「はぁ?」

「『本当のこと』なんて何も知らないくせに、偉そうに、知った気になって」


カッとなったらしい奏ちゃんは、ガンッ、と壁を殴った。

鈍い音がガード下で反響する。



「俺はあの野郎だけじゃなく、川瀬の野郎も殺してやったんだよ!」


奏ちゃんの叫んだ声もまた、反響した。

だけどキョウは眉ひとつ動かさない。



「何言ってんだか」


言って、キョウは、宙を仰いだ。
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