狂想曲
「確かに奏は、親父を刺したよ。でも親父は、それが原因で死んだんじゃない」

「……え?」

「親父は奏に刺されても死ななかった。病院に運ばれて、手術は無事に成功。一命を取り留めたんだよ」

「……何、言って……」

「親父はその入院中にガンが見つかって、その時にはもう余命一ヶ月もなかった。だから親父が死んだのは、ガンの所為。奏が刺さなくてもあいつは死んでた」

「………」

「むしろ奏が刺したから、あいつは余命宣告されてから2週間も長く生きられたんだ」

「……そん、な……」


奏ちゃんは絶句する。

だけどキョウは、さらに、



「ついでに言うと、奏は“犯人”ってことになってない」

「何?」

「親父は奏に刺されても、被害届を出さなかった。かたくなに『自分でやった』とか言ってたな。誰が聞いてもおかしいってわかってても、親父は奏を“犯人”にはしなかった」

「………」

「自分の名誉を守るためだったのかもしれないけど。でも、結果として、親父は血の繋がった息子である奏を守ったってわけだ」

「どうして今までそれを黙ってたんだよ!」

「黙ってることがお前に対しての復讐になるからだよ。真実を知らずに、“人殺しの自分”に押し潰されて苦しめばいいと思った」

「………」

「俺は奏が許せなかったから。奏は俺より愛されるんだ、って。“本妻の子”の俺よりだよ」


ゆらり、と、キョウの煙草の煙が揺れた。



「芹沢のおっさんだってそうだ」

「……父さん?」

「奏は、芹沢のおっさんに捨てられた気になって恨んでるかもしれないけどさ。あの人は、奏に大学を続けてほしかったんだよ」

「………」

「お金がない、将来有望な奏のための学費を用意できない、奏が幸せになるには貧乏な自分が育てるより本当の親である金持ちの川瀬の元で暮らすことが一番だ、って」

「………」
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