狂想曲
「だから芹沢のおっさんは、奏のことをいらないと思ったから川瀬に返そうとしたわけじゃない。奏のためを思ったからこその、苦肉の判断だったんだ」

「………」

「なのにお前はいつも悲劇のヒーローを気取って被害者面。自分だけの解釈で真実を歪めて、正当化して」


奏ちゃんは、乾いた笑いを口元に浮かべ、こうべを垂らした。


雨音が、轟音になる。

肌寒さが悲しみを増長させる。



「これじゃあ俺、ただのピエロじゃん」


ゴーッ、と、高架の上を列車が走る。


私は、何も言えないから、代わりに、こうべを垂らして肩を揺らす奏ちゃんの頭を撫でてあげた。

絶望の音は、鼓膜を破りそうなほどうるさい。



「ほんとムカつくよね、川瀬」


私にもたれ掛かりながら、自嘲するように奏ちゃんは言う。



「川瀬 卓人。卓の上から俺らを見てる人。……タクトだよ?」

「あぁ」

「タクトってさ、あれじゃん。指揮者が持ってる白い棒。すべての音をあんな細いもんで操るんだよ」

「まさに俺たちは、一段高い場所にいる“タクト”に人生を翻弄されてるってわけだな」


キョウもまた、自嘲気味に言いながら、こてりと私の肩口に頭を預けた。

ふたりの重みがひどく悲しい。



「響、奏、律。次は何? 弦ってやつでも現れんの?」

「現れたら笑えねぇよ、馬鹿。それにこんな人生、俺らだけで十分だろ」


息を吐き、キョウは立ち上がった。



「もう、全部終わりにしようぜ」
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