狂想曲
眠くて眠くて、死んでしまいそうだった。


私は、朦朧としたまま、その言葉の意味をしばらく理解できず、やっとのことで目線だけを上げた。

キョウと目が合った。



「律は逃げろ。ひとりで、逃げるんだ」

「……え?」


驚いて、今度は右隣りの奏ちゃんに目をやった。

でも、奏ちゃんはキョウの言葉に頷きながら、同じように立ち上がる。



「心配しなくていいよ。律のことは、俺らが守るから」


ふたりが何を言っているのかわからない。

なのに、奏ちゃんとキョウは互いに顔を合わせ、



「お前さぁ、よくそんなくっさいこと言えるよなぁ。きもいよ。恥ずかしいとか思わねぇの?」

「はぁ?」

「いや、マジで。俺、思ってても言えねぇよ、そんな台詞」

「つーか、元はといえば、キョウが電話で言ったんだろうが」

「そうだっけ?」


飄々としながら、キョウは奏ちゃんの肩に腕をまわす。



「まぁ、そういうことだから、律はこれからの、自分の幸せだけを考えろ」


憎しみ合っていたふたりなのに。

なのに、私なんかのために、結託して。


笑おうとしたのに、涙が溢れた。



「運命共同体だと思ってたのに、私だけ仲間外れにするつもりなの?」

「そんな運命は、俺と奏が背負えばいい」

「私だけ逃げていいはずないじゃない」

「いいか悪いかじゃない。律が逃げることは、俺らのためでもあるんだよ」
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