狂想曲
そんな言い方をされたら、私はもう、このふたりと一緒にいられないじゃない。

奏ちゃんはキョウの言葉に頷きながら、



「律、新しく住むとこ決めたんだろ? 行けよ」

「………」

「父さんのプラネタリウムは、何があっても俺が持ってるから。またいつか会った時に、ちゃんと律に渡すまでは、大切に、しとくから」

「それって、もう二度と会えないなんてことはない、ってことだよね?」

「当たり前じゃん」


語尾は僅かに震えていた。

奏ちゃんは顔を俯かせて煙草を咥える。


キョウはそんな奏ちゃんを横目で一瞥し、頭をくしゃくしゃっとしてから、まわしていた腕を外して、その手を私の方へと伸ばす。



「立って」


引っ張られて、私はよろよろと立ち上がった。

それでも足に力が入らなくて、よろめきそうになったところで、キョウに抱き締められた。


ぬくもりが、悲しかった。



「ごめんな、律」


最後の最後まで、キョウはそれだ。



「好きだったよ。今でもまだ、すげぇ好きなのにさ」

「………」

「できることなら律のハタチの誕生日、俺が祝ってやりたかった」


キョウは唇を噛み締める。

まわされた腕に力が込められる。


けれど、息を吐いて顔を上げたキョウは、



「でも、それももう無理みたいだから。だから、これが俺らから律への誕生日プレゼントだ」

「え?」

「これからは過去を捨てて、自由に、明るく楽しい未来を」
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