狂想曲


午前6時。


ほとんど寝ていない脳に鞭打って、あくび混じりに体を起してカーテンを開けたら、まぶしすぎる朝日に照らされた。

嬉しくなって、私は思わず窓を開けて伸びをする。



「あー、気持ちいいー」


と、ひとり言を言った後で、おばさんくさい自分に思わず突っ込みを入れて。


冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターを取り出した。

きんきんに冷えたそれを手にし、さすがに身震いしてしまう。



「10月の朝ってこんなに寒いんだっけ?」


誰に問いかけたのか、当然だけど返事はない。

ひとり暮らしも3年目を迎えると、私もすっかり寂しい女だ。


『お前せめてカレシくらい作らないと女として枯れるぞ?』と、腹が立つ課長のセクハラ発言を思い出して、ふてくされて。


私は何をやっているんだろうと、苦笑い。

カレンダーを見つめながら、月日が流れる早さにしみじみさせられる。



「……3年、か」


逃げるようにこの街に戻ってきて、最初は何をするでもなく引きこもっていたけれど、お金が底をついたから、働き出して。

そのうち、小さいけれど、ちゃんとした会社の社長さんに声を掛けられて、正社員になれて。


それからは、忙しい毎日に自ら飲み込まれるように働き詰めた。


過労で倒れたこともあった。

だけど、それを苦だとは思わなかった。



どうすればひとりで幸せになれるかなんてわからなかったから、だからとにかく目の前にあるものと必死で闘ってきた結果が、今だ。



「なーんて、何を思い出してんだか。それよりさっさと準備しなきゃね」


言って、私はミネラルウォーターを喉の奥に流し込んだ。

思い出してしまったのは、きっとそれが“今日”という日だからだろう。

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