狂想曲
春の夜の雨は静かに世界を染める。
しっとりと、じんわりと、私の体からも熱を奪っていく。
このまま消えてなくなってしまえばいいのにと思った。
どこかもわからない場所の、閉店したらしいシャッターの下りた店の軒先でしゃがみ込む。
目を瞑り、眠ってしまえば、すべて忘れられるんじゃないか。
そんな願いにも似た気持ちになった時だった。
「何やってんの」
上から落ちてきた声。
ナンパでも何でもいいと思った。
ゆっくりと目を開け、顔を上げた。
「こんなとこで死なれちゃ迷惑なんだけど」
傘をさして佇む彼は、肩をすくめ、私と同じ目線の高さまでしゃがみ込むと、
「つーか、ひでぇ顔だなぁ、おい」
苦笑いが向けられた。
これは夢でもなければ、私は幽霊を見ているわけでもない。
「…………んで……」
「あ?」
「何でまた私に声掛けてきたんだか」
「だからこんなとこで死なれちゃ迷惑だからだっつってんだろ」
キョウは、私の腕を掴んで引いた。
「いいか? こんなとこであんたみたいな女が死んでたら、変な事件でも起こったんじゃねぇかって警察が勘繰って捜査すんだろ?」
「………」
「そしたら俺らみたいなのが真っ先に疑われんの。で、わけわかんねぇ理由でパクられたりするんだよ。したら、すげぇ困るだろ」