狂想曲
私は腕を引かれるままに立たされた。

けれど、足元がおぼつかない。


ひどい目眩がする。



「じゃあ、ここじゃなければいいの?」

「は?」

「あなたに迷惑が掛からないところってどこ?」


雨に濡れただけなのか、それとも泣いているのかわからなかった。

ただ、体は芯まで冷たくなっていて。



「家あんだろ? 帰れや」

「帰りたくない」

「何で」

「私はみんなが思ってるような人間じゃないからだよ」


キョウは私の言葉に何も言ってはくれなかった。


長い指がズボンのポケットをまさぐり、煙草の一本が取り出された。

それを咥え、火をつけたキョウは、少しの沈黙の後、煙を吐き出しながら私を見た。



「あんた歩けるか?」

「え?」

「歩けるか歩けないか聞いてんだよ」

「……歩ける、けど」

「じゃあ、ついてこい」


わけがわからなかった。

けれど、キョウは言い捨てて、さっさと歩き出してしまう。


私はふらふらとしながらその後を追った。




歩くだけで精一杯で、だから思考する気力もなく、もうどうにでもなってしまえばいいと思っていた。

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