狂想曲
連れてこられた場所は、何の変哲もないマンションの一室だった。
キョウは私に、どこからか取り出したバスタオルを投げ、
「とりあえずシャワー浴びて来い」
風呂場らしきドアを顎でさす。
「服、俺のスウェットでいいだろ。ほら」
聞きたいことは山ほどあった。
けれど、それっきり、キョウは私に興味を示すこともなく携帯を取り出し、リビングに行ってしまった。
だから仕方なく、私は手渡されたバスタオルとスウェットを持って、風呂場のドアを開けた。
シャワーを浴びて、ぶかぶかのスウェットを着て風呂場を出たら、キョウは私に気付き、いじっていた携帯を閉じた。
「何か子供が大人の服着てるみたいだな」
キョウは私を見て、少し笑った。
笑ったらやっぱりちょっと奏ちゃんに似てる気がした。
ざっと見渡してみても、特に何もない部屋は、だからなのか、寂しげな雰囲気で。
「ここ、あなたの部屋?」
「まぁ、そんなようなもんだな」
「何で私をここに連れてきたの?」
「だから何度も言わせんなっつの。あんなとこで死なれちゃ迷惑だからだよ」
「本当にそれだけ?」
「あ?」
「本当にそれだけで、どこの誰かもわからない女を助けた挙句、家にまで連れてきたの?」
シャワーを浴びたおかげで熱を取り戻した指の先はじんじんしていた。
だけど、心は、ひりひりとしたままだ。
キョウは肩をすくめて窓辺に目をやった。
「俺の“理由”をあんたが知る必要はない」