狂想曲
キョウは、私の方を見ることもなく煙草を咥えた。


優しい人なのかと思ったら、突き放される。

彼が何を考えているのかわからない。



「ベッド、隣の部屋だから。勝手に使え」

「え? でも……」

「別にあんたの寝込み襲うほど飢えてねぇし、信用できねぇなら鍵でも掛けとけよ」

「じゃなくて、あなたはどうするの?」

「俺は寝ないからいい」


吐き出された煙が部屋をたゆたう。

キョウは視線を投げ出した。



「眠れないんだ。もう、ずっと。白昼夢みたいな世界の中で、答えの出ないことばかり考え続けて」

「………」

「ぐるぐるぐるぐる、考え続けるうちに朝がきて」


焦点の合っていない瞳で彼方を見つめながら、キョウは支離滅裂なことを脈絡なく言っている。

そしてキョウは、ふう、と息を吐いた。



「俺、雨の夜が一番嫌いなんだ」


何も言えなかった。

何を言えばいいかもわからなかった。


夜の闇よりもっと暗い何かを抱えているらしいキョウに、私が、安易なことを口にできるはずもない。



キョウは視線を落とす。



「頼むからあんた向こうの部屋行って。じゃなきゃ俺、あんたのこと殺すかもしれねぇ」


泣き出しそうな顔と声。

キョウはずるずると壁を伝うように、その場に崩れるようにうずくまる。



「俺はあんたのこと殺したくねぇんだよ」


今度はそこに震えが混じっていることがはっきりとわかった。
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