狂想曲
溺没
カフェの、さんさんと陽を浴びたウッドデッキのテラスで、私はカフェラテを一口口に含む。
「律! マジでごめん! ほんとごめん!」
百花は合わせた両手の平を頭上高く掲げ、そんな言葉を繰り返す。
私は笑った。
「いいって。怒ってないって何回も言ってんじゃん」
「でも……」
「百花の悪酔いには慣れてるし、大丈夫。まぁ、ここは奢ってもらうけど、それでチャラってことで」
本当にもう、百花に言われた言葉は気になどしていない。
と、いうか、どうだってよかった。
私の中を占めているのは今、そんなことじゃないのだから。
「私はね、百花のことが羨ましいの」
「……え?」
「百花はね、全力で人を好きになれるから、あんな風に荒れるんだよ。でも私はそうじゃないから」
「律……」
「よくわからないんだ、もう。恋も、愛も、私には」
柔らかな風がふわりと吹いた。
優しい春の匂いがする。
私の携帯がアラーム音を響かせた。
「ごめん、私これからバイトあるから。宮内店長にどうしてもって言われちゃったし」
「……そっか。頑張ってね」
「ありがと。百花もね。また連絡する」
「うん」
私は百花を残して席を立つ。
ざらりとしたものが心のひだを撫でる。
私の中の何かが軋んでいた。