狂想曲
6時間そこにいた。
私には、1セットの客がふたりあてがわれた。
本番行為はしなかった。
久しぶりで顎が痛かった。
腕も筋肉痛になってしまった。
私の手には、精液のつんとした匂いがこびりついていた。
「りっちゃん、今日は本当にありがとね」
私は手渡された封筒の中を確認した。
約束通り、少し多い札の数。
「また困ったら電話するから。頼むから着信拒否にはしないでね。ほんとに。りっちゃんだけが頼りなんだから」
うだつの上がらない、この独特の感じが、宮内店長らしいなと思う。
私は苦笑いだけを返し、店を後にした。
夜になっていた。
「あー、気持ち悪い」
帰りに何度もうがいをしたのに、未だに口の中が苦い。
奏ちゃんのために、でも奏ちゃんには内緒で、どんどん現金が増えていく。
本当はこんなものが欲しいわけでもないのに、なのに奏ちゃんがそれを求めるから、私も同じようにそれを求める。
方法なんて別に私には大したことじゃない。
私は店から出たそのままの足で、街へと繰り出した。
ネオンの街は私を覆い隠してくれるから好きだ。
キョウが言った『白昼夢』を、体現しているような気分になる。
私はいつもそこを目的もなくただ歩く。