狂想曲
あれから――私が人違いで拉致されてから、実に一ヶ月以上が経った。
キョウと一緒に夜を過ごしたあの日からでももう、半月以上は経っている。
私の日常はつつがなく繰り返される。
私は、百花との仲直りついでに、禁酒宣言を撤回した。
元々、あの拉致事件は夢ではなかったのだから、禁酒を続けている理由もなかったというだけだけれど。
それからはもう、私はほぼ毎日のように百花と飲み歩いた。
お酒の力に任せていれば大抵のことは忘れられたから。
そんなある日のことだった。
その日、私は珍しく、馴染みのスタンディングバーでひとりで飲んでいた。
店を出たのは日付が変わる頃で、私はいい感じに酔っ払っていた。
ふわふわとした足取りのまま、いつものように目的もなく歩いているうちに、私はどうやら駅裏にやってきてしまっていたらしい。
駅裏は、はっきり言って薄気味悪い。
街から近いはずなのに、なのに開発途中で断念しただとかで、新しい大きなビルと古い廃墟のような建物が混在しているのだから。
「あれ? 何で行き止まり?」
私は自分の方向音痴さに少し呆れながら、来た道を戻ろうとした。
その時。
「…………てぇ……」
物陰から人のうめき声のようなものが聞こえ、背筋が凍った。
それでも私は、生唾を飲み込み、そちらに目を凝らす。
どこか見覚えのあるシルエット。
「キョウ?」
まさかと思った。
けれど、そこにうずくまっていたのは、紛れもなくあの、キョウだった。