狂想曲
キョウをあのマンションまで運んだ。
運んだと言っても実際は、私は、ふらふらと歩くキョウの後ろをただ心配しながらここまでついてきただけなのだが。
部屋に入るなりキョウは電気も点けずにソファに倒れた。
「水飲む?」
「いいよ。口の中切れてるから沁みるし」
「救急箱は?」
「ねぇよ、そんなもん」
「じゃあ、何かしてほしいことある?」
私は何をすればいいかもわからず右往左往していた。
だったら私は何でここまでついて来てしまったのかと、今更のように思ってしまう。
「何もしなくていいから、あんたそこ座ってろ」
キョウは目だけで私に、ソファの前に座るようにと促した。
おずおずと腰を下ろす。
ソファに倒れ込んだキョウと、同じ目の高さになった。
月明かりだけが頼りのほの暗い部屋。
「そこにいて」
そう言ったきり、キョウは目を閉じてしまった。
私は言われるままに、ここから動けなくなってしまった。
前に、『眠れない』とか何とか言ってた彼は、なのに目を開けない。
そのまましばらくすると、寝息が聞こえてきたから驚いた。
私は恐る恐る、キョウの服の裾を引っ張ってみたが、反応すらなかった。
「ねぇ、ほんとに寝ちゃったの?」
もちろん、その返事もない。
私はまたどうすればいいのかわからなくなった。
『そこにいて』と言われた以上、勝手に帰るのもはばかられるが、だからってほんとにずっとここにいるのもどうかと思う。
私はその寝顔を見つめながら口を尖らせた。