狂想曲
「変な人」


思わずそう漏らしてしまった。


別に私だって何の警戒心も抱かずここまでついてきたわけではない。

なのに彼は私に触れることすらしないのだから、逆に私の方が自意識過剰みたいで。



私はまじまじとキョウを眺めた。



最初の頃ほど奏ちゃんと似てるとは思わなくなった。

けれど、まるで似てないかと言えば、やっぱりそうとも言い切れない。


だからまったく違う人間なのに、不思議なものだと思う。



「あなたは何者なの?」


私はその寝顔に向けて問い掛けた。



「キョウ」


よく言えば精悍な、悪く言えば余分なものすべてが削ぎ落とされたような体躯。



ソファからだらんと垂れているキョウの腕。

よく目を凝らすとたくさんの古傷だらけだった。


それに気付いた時、私は何とも言えない、悲しい気持ちになってしまった。



「ねぇ、キョウ。ここは静かなところだね」


本当に、嫌になるくらいに静かな部屋。

キョウの小さな寝息と、私のくだらないひとり言だけが、虚しくもただ宙を舞う。


私は息を吐いて携帯を開いた。




【今日は百花の家に泊まるね】




奏ちゃんにメール。

ふたりで暮らすようになってから、これがいくつめの嘘なのかももう、わからない。


私は本当は、だから決して奏ちゃんの“いい妹”ではないのだ。

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