狂想曲
キョウはふうっと宙に向かって煙を吐き出した。

窓から注ぐ朝日が、それを照らす。



「だってあんたは敵じゃないから」

「え?」

「もしも真っ暗な部屋で寝てる間に、誰かがそのドアを蹴破って入ってきたら、って思ったら、怖ぇの。だからあんたがそこで座っててくれたから、油断してたら寝落ちした」

「………」

「そんで、起きたら体はすげぇ痛かったんだけど、何か色んなことがすっきりした。あんたのおかげだ」


私はただ一晩中、傍で座ってただけなのに。

なのに、キョウはそんなことで私に感謝する。


何を抱えているのかと、また気になったけど、聞けないまま。



「背中、見せて。痛いんだったら冷やすなりしないとだし」

「いい。触るな」


いつもキョウは、私に『触るな』と言う。

言われた私は拒絶されたような気持ちになる。



「私はあなたの敵じゃないよ。手当てしたいだけ」

「でも、触るな。あとで自分でするから」


キョウはまた私を制した。

キョウの内側に近付けそうになる度、突き放される。


私は息を吐いて立ち上がった。



「じゃあ、私にできることは何もないみたいだし、帰るね」

「律」

「お大事に」


どうしてこんなに悲しい気持ちにさせられるのか。


私は荷物を手にキョウの部屋を後にした。

キョウは特に何か言うわけでも、ましてや追ってくるなんてこともなかった。



だからまた、わけのわからない悲しさが増殖した。

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