狂想曲
愛河
奏ちゃんに牽制されて以来、私は大人しく過ごしていた。
メインでやっているコンパニオンのバイトも控えて、短期のフライヤー配りなどをしていた。
そしてそれは雨が降りそうな夕刻だった。
私は駅前広場に用もなく立っていた。
目の前でふたり組の少年がアコギをかき鳴らしながら歌っていた。
「何やってんの」
目を向ける。
声でキョウだとわかってはいたけれど。
「10日ぶりじゃない? 怪我、もういいの?」
「おかげさまで」
キョウは常套句だけを返してきた。
「で、何やってんの」
「ただの時間潰し。今家に帰ったらお兄ちゃんに会っちゃうから。だからここで、お兄ちゃんが仕事に行くまでの時間を潰してるの」
「ふうん。だからってあんたよくこんな下手くそな歌聴いてられるな」
確かに少年たちの歌は上手いわけではない。
人が立ち止まることもない。
「ギターのチューニング合ってねぇし、湿度考えろってんだよ。歌は論外。特にEから上の高音域。ふたりして不協和音にしか聴こえねぇ。これでハモってるつもりかよ」
私は驚いた。
「そういうのわかるの?」
「絶対音感あるから、俺」
「うそっ」
「ほんと。まぁ、別に何か役に立つわけでもねぇし、それどころか日常生活の騒音が気になって疲れるから嫌なんだけど」
キョウは平然と言ってのけた。
私は目をぱちくりとさせる。
確かに人って見掛けに寄らないことが多いけど、でもこれはかなり意外すぎだ。