狂想曲
キョウの車はどこにいても悪目立ちする、他にいじるところがないくらいに改造された、古いキャデラック・セビルだった。
乗るのにちょっと勇気がいった。
「すごい車だね」
「燃費悪ぃからあんま乗ってねぇけどな」
キョウは平然とした顔で煙草を咥え、シフトをドライブに入れた。
「今日、何で私のこと誘ったの?」
「雨降りそうだったから」
「何それ」
笑ってしまう。
キョウは本気で雨の夜が嫌いらしい。
「雨の日にトラウマでもあるの?」
「まぁ、色々とね」
はぐらかして、キョウは私を横目に見た。
「あんた何か食いたいもんある?」
「お酒飲みたい」
「いやそれ、食いもんじゃねぇじゃん」
キョウは笑った。
おかしそうに、笑っていた。
だから少しだけ距離が縮まったような気がしたのは、私の気の所為なのか。
それから車は近場の居酒屋に入った。
よくあるチェーン店の、奥のボックス席の一角。
私とキョウは向かい合わせに座り、ビールで乾杯をした。
人の熱気でむせ返りそうだった。