狂想曲
空きっ腹も手伝って、飲み始めて一時間も経つ頃には、私はすっかり酔っ払っていた。
さすがのキョウも怪訝な顔をする。
「飲み過ぎだろ」
「私ね、お兄ちゃんにもよくそうやって怒られるんだぁ」
別に愚痴りたいと思っていたわけではないけれど、奏ちゃんのことを考えると、途端に窮屈な気持ちになる。
キョウは頬杖をついたまま。
「お兄ちゃん、私のこと勘違いしてるの。いい子だと思ってる。今までそうやって演じてきたのは私だけど」
「………」
「ほんとの私は体売ったり風俗で働いたり変なパーティでお尻触られたりしてんのにね。全然いい子でも何でもないでしょ」
私は自嘲気味に目を伏せる。
「馬鹿じゃんね」
たとえば私と奏ちゃんが他人で、恋人とかだったなら、もっと違っていたかもしれない。
けれど、私たちは寄り添い合っている、血の繋がった兄妹だから。
だからつかず離れずの距離で、ねじれていく。
「お兄ちゃん、もしかしたら私のこと好きなのかもしれない」
グラスの水滴がテーブルに溜まっていた。
「私だってお兄ちゃんのこと好きだよ。でも、恋愛感情なんてありえないでしょ。兄妹だよ?」
「そんなこと俺に言ってどうすんの」
「……だよね」
3杯目のビールを喉の奥に流し込む。
苦味しか感じなかった。
「だから飲み過ぎだっつーの」
キョウは私の手からグラスを取り上げる。
その時、指の先が触れて。
酒に焼けた思考が変な方向に向かっていく。