狂想曲
「キョウはさぁ、好きな人とかいるの?」


私はキョウに目を向ける。



「何いきなり」

「いる?」

「いるよ」

「付き合ってるの?」

「違う。ずっと見てるだけの人」

「……見てるだけ?」

「そう。何年も何年も前から、俺が一方的に想ってるだけ」

「それで満足なの?」

「さぁ? でも、本当のこと言って傷つけたくないから。そうなるくらいなら今のままでいいやって」

「どんな人なの?」

「俺じゃないやつのことしか頭にない人」

「それって三角関係じゃん」

「だな」


キョウは店員を呼び、私のグラスを下げさせ、代わりにウーロン茶を頼んでくれた。


耳障りな店内の喧騒。

向こうの席からはイッキのコールが聞こえてくる。



私が、持ってこられたウーロン茶を一口だけ口にすると、



「行くぞ」

「2軒目に?」

「何でそうなんの。もう飲ませねぇよ」


呆れたように言うキョウに、私は口を尖らせた。


しぶしぶ席を立つ。

私が財布を出すより先に、キョウはさっさと会計を済ませてくれた。



「ありがとう」と私が言ったら、キョウは「俺が誘ったから」とだけ。

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