狂想曲


行為が終わっても、キョウは私を腕の中で抱き締めたまま。



私は、まどろむ意識の中でぼんやりと心地のいい倦怠感に身を委ねる。

キョウは私の髪の毛を意味もなくいじっていた。


そして目が合うと、軽くキスをされた。


だから、愛されているんじゃないかと勘違いしてしまいそうになる。

この人の手は、決して私を傷つけたりはしないから。



乱れてべっとりと体に絡んだ邪魔な衣服はもどかしかったが、でも動くことは億劫だった。



「こういうこと、しない人なのかと思ってた」

「自分から誘ってきといて?」

「それもそうだけど、こうやってベタベタするの嫌いなんだと思ってた、ってこと」

「俺そんなこと言ったか?」

「だっていっつも『触るな』って言うじゃん」

「あぁ」


キョウは思い出したように小さく笑った。



「俺昔、虐待されてたから」

「……え?」

「だから人の手はあんま好きじゃなくて。知らないやつとかに触られると気持ち悪ぃの」


平気な顔で、キョウは言う。

だから私の方が悲しくなった。


聞かなきゃいいことなのに、なのにまた聞いてしまってる自分がいる。



「じゃあ、私は?」

「あんたは別。あんたにベタベタされるとヤリたくなるから」

「何それ」

「でもするつもりなかったんだよ。だから触られたくなかったし、我慢してたのに、あんなことしやがって」

「わけわかんない」


好きな人がいると言っていたくせに、私に欲情してて、簡単に誘いに乗って。

だけど、次の言葉を紡ぐより先にまた塞がれた唇。



「もういいだろ?」
< 53 / 270 >

この作品をシェア

pagetop