狂想曲
百花と飲んで、何時に帰宅したかは思い出せない。
それから昼に起きた私は、二日酔いの所為で夕方までソファでごろごろしていた。
奏ちゃんが部屋から出てきたのはそんな時だった。
「はよー、律」
欠伸を噛み殺したような奏ちゃん。
「おはよー」
「今何時? つーか、律何やってんの?」
「ちょっと頭痛くてさぁ」
飲み過ぎて、とは言えないけれど。
こめかみを押さえながら体を起こす私のところに、奏ちゃんが近付いてくる。
そして私のおでこに触れた。
「んー、熱はないみたいだけど。風邪?」
体がこわばるのがわかる。
私は引き攣った笑みで言った。
「大丈夫。多分、疲れが出ただけだと思うから」
奏ちゃんは私を女として好きなのかもしれない。
なんて思い始めると、どんどんそうなんじゃないかと疑心暗鬼になる私は、もしかしたらとんだ自意識過剰なのかもしれないけれど。
でも、だからって、嘘でもほんとでも、それを突き詰めようとは思わない。
「けど、もしも風邪だったら、奏ちゃんにうつしちゃいけないし。私部屋に戻るね」
「そんなこと気にしないの。俺にうつしてもいいから、律が元気になればいいの」
奏ちゃんは笑いながら私の頭を撫でた。
優しい兄の顔。
なのに私は目を合わせられなかった。