狂想曲
本当に、どういうつもりで言っているのかわからない。

キョウは電話口の向こうで少しの沈黙を残し、



「今どこ?」

「バーで飲んでる」

「あんたまた飲んでんの? ひとりで?」

「うるさいなぁ」


と、言いながら、詳しい場所を伝えると、「じゃあそこで待ってろ」と言ったキョウは、さっさと電話を切ってしまう。

私は携帯を見つめながら茫然とすることしかできない。


残されたのは、11桁の数字の羅列。


私は、携帯をバッグに投げ入れ、ギムレットの残りを流し込んだ。

そして丸テーブルで頬杖をつく。



取り留めもなくフロアを眺めていた時、



「ねぇ、ひとり?」


ふらふらと男が近付いてきた。



「よかったら一緒に飲まない?」


私は目も合わせなかった。

けれど男は諦めてくれないみたいで。



「どうせ男漁るためにひとりで飲んでんだろ?」


耳元で、粘着質な声が響いた。



「私そんなに欲求不満そうに見える?」

「見えるから声掛けたんだけど」


男はにやりと笑って私の肩に腕を回した。

けれど、瞬間。



「それ俺の女だから離れてくんねぇ?」


背後からの声に、男と同時に振り向いた。

キョウが、煙草を咥えて立っていた。
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