狂想曲
わざとなのか、本気なのか。

キョウは、言いながら、まるで子供にするみたいに私の頭を撫でた。


カッと瞼の淵に熱が集まる。



「やめて」


奏ちゃんと同じようにしないでほしかった。

飲み過ぎているこんな時は、余計に混同してしまいそうで怖い。


キョウは物憂い顔になる。



「こういうことされんのが嫌なら、俺の車になんか乗らなきゃいいのに」


その通りだ。

だから自分自身に辟易して、言葉も出ない。



「つーか、何で泣くかな」


泣きたいわけじゃないのに。

なのに勝手に溢れる涙を抑えられなくて。


先に引いたのはキョウの方。



「わかったよ。悪かった。だから泣くなって」


キョウが先に謝るから、私はごめんと言うタイミングを失ってしまう。

これじゃあ私は、ただのタチの悪い酔っ払いだ。


キョウは一瞬目を伏せ、息を吐いて、また私に目をやった。



「ちょっと遠くに行くけど、付き合ってくんない?」


努めて普通に、といった風な顔で、キョウは言った。

だけどもそれっきり、キョウは何も言わなくなってしまった。


重苦しい沈黙の帳の降りた、狭い車内。

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