狂想曲
少しの野次馬根性さえ孕んでいた問いを放った自分が、泣いていいわけもないのに。

なのに、出尽くしたと思っていたはずの涙がまた溢れてくる。



「あーあ、俺またあんたのこと泣かせた?」

「違うの。私は私のことが嫌になりすぎて」


キョウは困ったように肩をすくめて見せ、



「ちょっと外出るか」


と、ドアを開けた。

私もうなづき、涙を拭って車を降りた。


思ったよりも風があった。


6月なのに肌寒ささえ感じてしまった。

酒はすっかり抜けていた。



キョウは「こっち」と私に促し、先を歩く。



かすかに風に海の匂いを感じた。

私は薄暗くて足元もおぼつかないような場所で、必死で置いて行かれないようにキョウを追った。


その時だった。



「きゃっ」


ヒールだったため、砂利道で足を取られ、転びそうになった私は、すんででキョウに支えられて。



「何やってんの」


キョウは暗がりの中で笑っていた。

まるで先ほどの話なんてなかったかのように、



「あんたいくつだよ。泣いたり怒ったり転びそうになったり、忙しいな」


そして、「ほら」と手を出された。

私は少し口を尖らせながらも、迷わずその手を取った。


繋いだ手はあたたかかった。

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