狂想曲
少し歩いた先に、展望スペースがあった。
いくつかベンチが置かれていて、そこに座ると海が望める。
真っ暗な空と同化したような、真っ黒い海が。
「寒ぃな。そして見事に何も見えねぇ。むしろ怖ぇし」
晴れた日のお昼にくれば、きっと最高のロケーションなのだろうけど。
「怖いの?」
「怖いだろ、そりゃ。お化け出たらどうしようとか。俺金縛りにあったことあるもん」
「マジ?」
「マジで、マジで。体動かねぇの。あれ絶対心霊現象だからな」
私たちはまるで、親に隠れて夜に家を抜け出した中学生のように、声が辺りに響かないようにくすくすと笑う。
静寂が私たちを包む。
「私そんなの体験したことないよ。キョウはお化けが見えるの?」
「見えないけど、第六感っつーの? 時々感じる」
「うそっ、やめてよ」
人っ子ひとりいない夜の公園で、私たちはそんなつまらない話ばかりした。
キョウが時折見せる悲しみの片鱗は、あといくつあるのだろう。
願わくば、これが最後ならと思った。
「帰ろう。風邪引くから」
話の後に沈黙が訪れた時、キョウはそう言っておもむろに立ち上がった。
ずっと繋いでいた手ももう冷たくなっていた。
それでも私たちは手を離さなかった。
心が揺れる。
好きな人がいると言っていたキョウに、揺らされる。