狂想曲
「別にわざわざ売り専じゃなくたって、レオならいくらでも稼げる仕事あるでしょ。ホストでも、ボーイズバーでも。男娼でもいいのに、なのに何で男の人と?」

「さぁ? 何でかな。落ち着くところに落ち着いたって感じじゃない?」


17という若い身空で、悟ったようなことを。

と、思ったけれど、私はレオの人となりなんて知らないから、偉そうなことは言えない。


私はレオがぐちゃぐちゃにしたケーキを見た。


人の欲望を握り潰したみたいなそれ。

レオはその欠片を口内に押し込む。



「ぼくね、お気楽で楽天的だってよく言われるんだけど、その通りなの。何も考えてないんだよ。明日のことも、明後日のことも、考えたことないの」

「………」

「今日が満足な一日だったら、それでいいじゃん、って。そいうことの積み重ねで今に至ってるわけなんだけど」

「………」

「だからぼくは明日にはまったく違うことしてるかもしれないし、逆に今日とまったく同じことしてるかもしれない。でも、それで楽しいならいいの」


型に嵌らない生き方だといえば、聞こえはいいけれど。



「何だかそれって、今死んでも後悔しないみたいな台詞ね」

「そうだね。特に何か執着するようなものもないし」


ぐちゃぐちゃにされたケーキは、もう見るも無残なほどで、原型はわからないほどになっていた。

レオの、垣間見えない過去みたい。



「私はあるよ。執着するもの。だからそのためにお金を稼いでるの」


レオは私を見上げ、



「何かや誰かのために生きられるあなたが羨ましい」


少し寂しそうな目で言った。



あの日から奏ちゃんのためだけに生きている私は、傍から見れば羨ましがられるような存在なのだろうか。

わからないから、私はレオに、肩をすくめて見せるだけ。


レオのくしゃくしゃの金髪が、少ししおれて見えた。
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