狂想曲
「じゃあレオも、誰かや何かのために生きてみれば? 何か変わることがあるかもしれないよ」

「そうかもしれないけど、人はね、そうそう自分の生き方って変えられないじゃない」


また随分と的を射たことを。

この子は物事の本質を見抜く目でも持っているのかと思う。



「レオってさ、フリーター?」

「違うよ。一応、学生。定時制の高校生。通ってて損はないからって、パパが学費とか用意してくれて」


レオは、言いながら、「見る?」と肩から提げていたバッグの中身を広げた。

教科書やノートに混じって、夜の情報誌があった。


私は少し笑ってしまう。



「何でそんなもん持ってるの?」

「これ? これはね、参考資料っていうか。かっこいい人とか、お店とか、たまにチェックしたりしてんの」


レオは私がそれに興味を示したからなのか、わざわざバッグから取り出して見せてくれた。

ぱらぱらとめくる。


“プレシャス”という店のページで、私の手は止まった。



「律さんもホストとか行くの?」

「私は行かないけど」

「そのお店のナンバーワンね、奏って人なんだけど。すごいらしいよ。いい噂も悪い噂も色々聞くけど、ぼく、その人とだったらタダで寝てもいいもんね」

「レオ、普段は女の子が好きだとか言ってなかった?」

「何にでも例外はあるって話さ」


言ったレオに、私は雑誌を突き返しながら、



「あのね、ひとつ言っとくけど、奏ちゃん、私の実のお兄ちゃんなの」

「えぇ?!」

「だからね、レオ、奏ちゃんのことは眺めておくだけにしておいてね」


レオは目を丸くして「ほんとに?」と何度も私に確認した。

その度に私がうなづいて見せると、レオはやっと信じてくれたのか、脱力したように椅子の背もたれにもたれかかった。
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