狂想曲
「ひどいよ。こんなの詐欺だ。律さんと顔全然似てないじゃない」

「でも兄妹なのよ、本物の。ついでに一緒に暮らしてる。何なら証拠に奏ちゃんの寝顔の写メでも撮ってきましょうか?」

「信じられない。寝顔の写メはちょっと見たいけど」


ぶつくさ言うレオは口を尖らせた。


夜の世界の王子様は、売り専ボーイまで虜にするのかと、私は何だか唖然とした。

奏ちゃんのことをそこまでいいと思える魅力は、私にはよくわからないから。



「あんまり言いふらさないでよ? 私、顔似てないから奏ちゃんのカノジョだと思われて、何度か大変な目に遭ったことあるんだから」

「ふうん。あんな人の妹ともなると、色々あるんだね」

「まぁ、でも、一番は奏ちゃんに体売ってることとか知られたくないし」

「なるほどね」


レオはココアをすすった。

ケーキ以上に甘そうなそれを、平気な顔をして。



「じゃあ、そんな秘密を教えてくれた律さんに、ぼくからもひとつ」


コトッ、とカップを置いたレオは私を見た。



「律さん、パパにあんまり深入りしない方がいいよ」

「……どういう意味?」

「パパとの関係は、続ければ続けるほど、抜け出せなくなる。だから、抜け出せなくなる前に関係を断った方がいいってこと」


レオは私を真っ直ぐに見据えている。

でも言葉の意味はわからない。



「あの人は律さんが思ってるよりずっと危険だ」

「どこが危険なのよ」

「知らないうちが花ってこと。パパとの関係の先には幸せなんてものはないから」


レオは言い切った。


だけど、私は優しくて紳士的な顔のパパしか知らない。

なのにこの子は他に何を知っているのだろう。



「ぼくと律さんが友達になったことは、パパに言っちゃダメだよ」


レオは目を細めて唇の前で人差し指を立てて見せた。

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