狂想曲
レオと番号を交換して別れた頃には、夕方になっていた。
そのまま街をふらふらしていたら、百花に居酒屋に呼び出された。
居酒屋で焼き鳥をつつきながら、私は、今日一日食べてばかりだな、と思った。
「あー、もう、すごい胸焼け」
「何? 律、まだ飲んでないのに、どしたのー?」
「いや、今日ちょっとケーキ食べ過ぎてさ」
「マジで? 珍しいじゃん」
「まぁね」
さすがの私も今日はウーロン茶にしておいた。
このままいくと本気で悪酔いしてしまいそうだから。
百花はよほど空腹なのか、ひとりで何本も焼き鳥を注文している。
「ねぇ、聞いていい?」
私はそんな百花を一瞥した。
「百花の幸せって何?」
「何よ、急に」
百花は突然の問いに目を丸くしながらも、「んー」と目線を宙へと投げ、
「お嫁さんになることかなぁ」
「……お嫁さん?」
「そう。あたしを心の底から愛してくれる人と付き合って、結婚して、子供産んで」
「………」
「子供は男の子と女の子ふたりがいいなぁ。そんでいつかは庭付き一戸建てを買って、専業主婦のあたしは毎朝玄関で旦那様にいってらっしゃいのチューするの」
百花は夢見がちな目で言った。
私はそんな未来なんて、候補のひとつにもなかったのに。
「すごいね、それ」
「でもまぁ、現実はあたしただの風俗嬢だし、そんなあたしを心の底から愛してくれる人なんていないんだけど」
百花は焼き鳥を、ビールと一緒に喉の奥に流し込んだ。
理想を再び奥底へと追いやるように。