狂想曲
求心
6月も後半を迎えると、随分と雲行きの怪しい日が増えたと思う。
雨の降りそうな夜、私はキョウに電話を掛けた。
「おー、どしたー?」
4コールで電話に出たキョウは、いつもの間延びした口調だった。
「ねぇ、一緒に飲まない?」
「あんたそれが開口一番ってどうなの」
キョウは笑いながら、「じゃあうちくれば」とだけ。
それだけしか話さず、電話を切った。
私はコンビニでビールやつまみを大量に買い、キョウの家に向かった。
相変わらず、人の気配のほとんどない駅裏。
どこかに迷い込んだみたいな道を辿りながら、私は、キョウのマンションへと急いだ。
チャイムを押すと、少しして、ドアを開けたキョウが顔を覗かせた。
「すげぇな、それ。あんたどんだけ飲むつもりだよ」
キョウは私の買い物袋を一瞥して笑った。
その口元は少し赤みを帯びていた。
「それ、怪我したの?」
「ん? あぁ、これね。大したことねぇよ。上下関係っつーの? 何か俺のことうざいらしくて」
「また殴られたの?」
「まぁ、最後には逆に土下座させてやったけどな」
あっけらかんとしてキョウは言う。
私は気が気じゃなかった。
何でもう少し穏便に生きられないのかとすら思う。
「俺は誰かの下につく気はないし、誰かと慣れ合う気もない。だから出る杭は打たれるって感じ?」
折角のピアニストの手なのに、なのにそれを誰かを傷つけるために使うだなんて。
私は悲しい気持ちになった。