狂想曲
奏ちゃんは「聞いてんの?」と言いながらも、諦めたようにため息を吐き、



「とりあえずシャワーでも浴びてくれば?」


と、言い残し、自室に帰って行った。


茫然としたままの私。

何が夢か現実かすらわからない。



私は再びフローリングに寝そべった。



昨日のことがすべて現実だったとしたならば、あのキョウさんとやらがうちまで運んでくれたってことになる、……けど。



「そんな馬鹿な」


だって私、名前すら名乗ってないのに、なのにあの人が私の家を知ってるわけがないじゃない。


だとするなら、どこかまで送られて、自分でここまで帰ってきた?

いや、でも、そんなの微塵も記憶はないわけで。



「もう、わけわかんなーい!」


私は謎だらけの中、もどかしさに足をバタつかせる。



「律、うるさいって」


部屋から出てきた奏ちゃんは着替えを済ませていた。

そして私を怪訝に見る。



「暴れたら下の階の人に迷惑でしょ。あと、俺寝不足だから叫ばないで」

「奏ちゃん!」

「お兄様と呼べ」

「そんなのいいから、私今すっごい大変なことになってんの!」

「そりゃあね。酔っ払って記憶ないと大変だろうけどね。まぁ、律の自業自得ってことで」


奏ちゃんは私の話に聞く耳すら持ってはくれなくて。



「じゃあ、俺出掛けてくるから」


と、言い残し、さっさといなくなってしまった。

薄情な兄だこと。

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