狂想曲
ひとり言のように呟いて、吐き出された煙。
それが頭上にある換気口に吸い上げられる。
私は何もなくなった鉄板の上に新しい肉を置いた。
るりさんって誰?
なんて、私には聞く勇気がなかったから。
「何か、すごい人だったね」
「だろ? 昔はこの街であの人に逆らえるやつはいないって感じでさ。俺もあんな人と仲良くしてんの未だに不思議だと思うもんな」
キョウは思い出したように言った。
「トオルさんを更正させたのは、今の奥さんなんだよ。るりちゃんっていうんだけど。俺昔から知ってんだけどさ」
「………」
「トオルさんのことはいいとしても、るりちゃんが幸せになれてよかった。俺の姉ちゃんみたいな人だから」
「そっか」
私はそうとしか言えなかった。
肉を裏返そうとしたら、脂の少なくなった鉄板に焼け付いた。
肉の片面が、どんどん変色していく。
人の気も知らないで、キョウは酔っているのか少し饒舌だった。
「るりちゃんには、すげぇ世話になったなぁ。いっぱい助けてもらったつーか。今の俺があるのはあの人のおかげだよ」
「………」
「るりちゃんのピアノは優しいんだよ。そのまんまって感じで。聴いてたら泣けてくんの」
「………」
「俺はそんな風には弾けなかったからさ。憧れてたっつーか、羨ましかったっつーか。ああいうのは人間性が現れるから」
“優しいピアノを弾く大好きなるりちゃん”の話を聞かされる、何もない私。
私は、もうどう相槌を打っていたのかも思い出せない。
最後には肉の味もよくわからなくなっていた。
それが頭上にある換気口に吸い上げられる。
私は何もなくなった鉄板の上に新しい肉を置いた。
るりさんって誰?
なんて、私には聞く勇気がなかったから。
「何か、すごい人だったね」
「だろ? 昔はこの街であの人に逆らえるやつはいないって感じでさ。俺もあんな人と仲良くしてんの未だに不思議だと思うもんな」
キョウは思い出したように言った。
「トオルさんを更正させたのは、今の奥さんなんだよ。るりちゃんっていうんだけど。俺昔から知ってんだけどさ」
「………」
「トオルさんのことはいいとしても、るりちゃんが幸せになれてよかった。俺の姉ちゃんみたいな人だから」
「そっか」
私はそうとしか言えなかった。
肉を裏返そうとしたら、脂の少なくなった鉄板に焼け付いた。
肉の片面が、どんどん変色していく。
人の気も知らないで、キョウは酔っているのか少し饒舌だった。
「るりちゃんには、すげぇ世話になったなぁ。いっぱい助けてもらったつーか。今の俺があるのはあの人のおかげだよ」
「………」
「るりちゃんのピアノは優しいんだよ。そのまんまって感じで。聴いてたら泣けてくんの」
「………」
「俺はそんな風には弾けなかったからさ。憧れてたっつーか、羨ましかったっつーか。ああいうのは人間性が現れるから」
“優しいピアノを弾く大好きなるりちゃん”の話を聞かされる、何もない私。
私は、もうどう相槌を打っていたのかも思い出せない。
最後には肉の味もよくわからなくなっていた。