狂想曲
それから、キョウの部屋で、キョウに抱かれた。
キョウは私の名前を呼びながら、「好きだよ」と繰り返した。
だから錯覚しそうになる。
どうせ私じゃない人のことを考えてるくせに。
なのに、嘘みたいに優しくされるから、私はそれでもキョウを欲してしまう。
私を抱き締めたまま、ベッドの、波打つシーツに倒れ込んだキョウは、
「やべぇ。俺今死んでもいいかも」
夢見がちな言い方で言って、目を閉じた。
「ちょっと、私そういう冗談は嫌いだって言ったじゃない」
「冗談じゃなくてマジだって。イクのと死ぬのって似てるらしいし、そんな感じ」
どんな感じなのかはわからない。
キョウは腕枕したまま、私の髪の毛先をいじる。
「俺の夢はもう全部叶ったから、だから目の前にあるものが壊れて絶望する前の、いい時のまま死にたいじゃん」
「………」
「今手の中にあるものを失うのって嫌なんだよね。いつか、真実が明るみになった時、多分俺の言葉は誰にも信じてもらえないから」
「………」
「そうなる前に、あんた殺して俺も死ぬの。よくない?」
酔っ払いの言ってることはさっぱりだった。
私は天井を仰ぐ。
「何で私まで一緒に殺されなくちゃいけないのよ」
キョウは、なのにくすくすと笑っていた。
いつもここで過ごす夜は静かだ。
だから私は余計なことばかり考えてしまうのかもしれない。
何かが、私の中に、渦をなす。