狂想曲
過去
いつものスタンディングバーでギムレットを引っ掛ける私。
隣にいる少年は今日も変わらず笑顔だった。
「律さん、これ美味しいね。やばいよ、ぼく、はまっちゃいそう」
レオは初めてのギムレットで嬉しそうにしている。
レオから『飲みに行こうよ』と誘われたのは少し前のこと。
私はいたいけな子を悪の道に引きずり込んでるみたいでちょっとした罪悪感もあったが、レオはすっかりこの場に馴染んでいた。
「で、何で私を誘ったのよ」
「いいじゃん。ぼくら、友達でしょ。友達と遊ぶのっていけない?」
何だかなぁ、と思う。
この子はよくも悪くもマイペースに、周りを自分の空気の中に入れるのが上手い。
私は肩をすくめて見せることしかできない。
「律さん、お酒全然進んでないけど、あんまり飲めない人?」
「そういうわけじゃないけど、ちょっとね」
「あ、恋の悩みだぁ?」
「何でそうなるのよ」
「だってそういう顔してるから」
適当なのか、それともほんとに見抜いているのか。
レオは笑いながらギムレットを傾けた。
「レオはどうなの? 恋とか」
問い返した瞬間、レオが苦笑いになった。
「ぼくはねぇ、賭け値なしには愛されたことないからさ。したことないんだ、恋なんて」
「………」
「腕も細いし、背も低いし、ぼく女の子みたいでしょ。だから、異性からも同性からも『可愛い』としか言われなくて。でも、ぼくはちゃんと男なのに」
「………」
「なのに、結局は見た目で終わり。誰もぼくの中身なんて必要ないんだよ」
「………」
「だけど、ぼくもそれを売りにして裸になってるからさ。だからやっぱりぼくには愛される資格なんてないんだ」