狂想曲
奏ちゃんは、ふっと力ない笑みを混じらせながら、



「こういうの、怪我の功名っていうのかな」

「……え?」

「律、最近俺のこと避けてたでしょ。でも、今やっとちゃんと話せたから。だから、熱出てしんどいのも少しは報われたっていうか」


私は堪らず顔をうつむかせた。

そして、やっと出た言葉は「ごめんなさい」という、肯定にしかなり得ない謝罪だった。


奏ちゃんは、またふっと笑う。



「俺、律に嫌われたのかと思ってた」

「そんなんじゃなくて……」

「いいんだよ。何か原因があって嫌われたんだとしたら、きっと俺が悪いからなんだし」


奏ちゃんは視線を彼方へと投げた。



「あーあ、昔はよかったのにな。何でこんなことになっちゃったんだろう」


奏ちゃんの、やり場のない気持ちが、部屋を彷徨う。

私は何も言えなかった。



「もうやめようよ。いつまでもそんなこと言ってたって過去は変わらないんだから」

「じゃあ、律は割り切れるの?」

「………」

「許せるの?」


奏ちゃんの、責めるような目が向けられる。


許すも許さないもないはずなのに。

なのに、奏ちゃんはそんな私を咎めようとする。



「父さんと、元請け会社の川瀬社長は、中学からの同級生で、旧知の仲だった。でも実際は、使う側と使われる側の、完全なる上下関係ができあがってた」

「………」

「父さんは川瀬にいつも逆らえなかった。それでも、どんな無理難題を吹っ掛けられたって、父さんは文句ひとつ言わなかったのに」

「………」

「なのに、川瀬は父さんを簡単に切り捨てたんだ」
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