狂想曲
俯瞰で見れば、いくらお父さんと川瀬社長が昔からの知り合いだったからって、企業の経営判断なのだから仕方ない側面もある。


確かにその所為で私たち家族は壊れた。

でも、それは川瀬社長だけが悪いわけじゃなく、不況の所為だ。



それでも、奏ちゃんはいつもそうやって『昔はよかった』と繰り返しながら、恨み節。



「人生をめちゃくちゃにされたのに、許せるはずなんてない」


奏ちゃんは、「律だってそうだろ?」と私に同意を求めてくる。

私はまた答えられなくなった。


復讐心でがんじがらめになったって、苦しむのは自分自身なのだから。



奏ちゃんは、何も言わないままの私を、ため息混じりに見上げ、



「俺、律にずっと言ってなかったことがある」

「……え?」

「これを言ったら、律だってきっとあいつらを許せなくなるはずだよ」


一度目を伏せ、そしてまた私に戻されたその瞳。



「ほんとは、川瀬の会社は危なくなんてなかったんだ」

「……どういうこと?」

「不況だからとか業績が悪化したからだとか理由をつけられたけど、それは全部嘘。川瀬の会社は上向きだった」

「そんな、だって……」

「その証拠に、あの頃、川瀬は毎日のように外車を乗り回しては、ゴルフ三昧。羽振りよく接待という名の飲み会を繰り返して」

「………」

「結局、父さんは川瀬に都合よく扱われて、邪魔になったから首を切られただけ。川瀬はそれに何の感傷も抱かなかった」


信じられなかった。

でも奏ちゃんが私に嘘を言うとは思えない。


私はひどく混乱した。



「俺は別に父さんを庇う気はないよ。だけど、川瀬だけは許せないんだ。その家族も、一族もろとも許せない」
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