Maria ~私の心を貴方に捧ぐ~
ここでは泣きたくない。


涙を流した瞬間、なんだか惨めな気持ちになりそうだから。


いろんなことを頭では理解していても、まだ心が追いついていない。



「京ちゃんが病院にいる間は京ちゃんに会いません」

「でもっ、それでいいの!?」

「京ちゃんの治療を邪魔したくないですし、なにより精神状態を不安定にさせるようなことはしたくないんです」



私より先に涙を流したのは音葉さんだった。


音葉さんはバッグから白のレースがあしらわれたハンカチを取り出し、そっと目元に当てた。


その仕草が、私なんかとは比べ物にならないほど綺麗だった。



「ごめん、私が泣くところじゃないよね」

「ありがとうございます…私が泣かないから代わりに泣いてくれたんですよね?」

「まりあちゃん……」



私の言葉にまたポロポロと涙を零す音葉さん。


京ちゃんの病気の事で、音葉さんも精神的に弱っているのかもしれない。


病気と闘うのは当人だけじゃない…周りにいる人たちも闘わなければいけない…自分の心と現実と………。




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