雪解けの頃に
プロローグ

理花

 ここはとある企業のニューヨーク本社。
 
「調子はどうだい、リカ。もう風邪は治ったかい?」
 
 パソコンに向かってうんうん唸っている日本人女性に向かって、体格のよい男性が話しかける。

「あ、フレディ課長。

 調子は……、気合いで何とかします!」
 

 胸の前で小さく握りこぶしを繰り出す。

「ハッハッハッ。
 
 リカには“大和なでしこ”という言葉は通じないようだな」
 
 大きなお腹を揺すって、体格同様に豪快に笑う。


「このプロジェクトもあとわずかで終了ですからね。

 寝込んでいる場合じゃないですもの」
 
 にこっと微笑んで、パソコンに向かう。
 


 カタタタタタッ……。
 見事な指さばきだ。

「日本で彼氏も待ってるし、さっさとこんな仕事を片付けて、帰りたいだろ」

「会いたいのは確かですけど……。
 
 でも、私の彼は心が広くて、優しいですからね。
 
 しっかり待っていてくれますもの。
 
 心配なんて何一つありませんわ」


 プリントアウトした書類を脇に立つ上司に差し出す。

「この書類にサインをお願いします」


 そして、再びパソコンのキーボードを叩き始めた。

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