雪解けの頃に
「さてと」
 
 封を開けようとした理花の手が止まった。


「これ……、雄一の字じゃないわ……」
 

 大学1年から付き合い始めて、もう7年になる二人。

 そこに書かれていたの理花の住所や宛名は、これまでに見たことのない文字だった―――流れるような達筆。
 

 確かに彼の字はとても綺麗だったが、この字は明らかに違う。

 雄一の書く文字はもう少し角ばった感じの物だ。


 封筒に書かれている文字はやわらかく、どことなく雄一のと似ているが、やっぱり受ける印象が違う。 
 
 直感だが、これは女性の字だ。



「どういうこと?」
 
 理花の胸の奥が大きくざわついた。


 
 おそるおそる手紙の封を開け、三つ折にされた数枚の便箋をゆっくりと広げる。
 
 すると、理花の眼に信じがたい文字が飛び込んできた。


 封筒に書かれていた文字とは違い、今度はまぎれもなく雄一の筆跡ではあったが、所々がゆがみ、かすれ、全体的にとても弱々しい印象を与える物だった。
 
「これって……」
 
 理花は数回まばたきをして、とりあえず文面に視線を走らせた。
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