雪解けの頃に
 でも―――。
 

 彼が私にあてた手紙を、私は読まなければならない。
 
 それが彼の願いであれば、彼女である私はそうするべきだ。

 

 頭では分かっている。
 
 文字を読むだけだ―――フランス語でも、ドイツ語でもない、日本語で書かれた文字。
 
 ただそれだけ。

 簡単なこと。
 
 文字さえ読めれば、誰にだって出来ること。

 分かってる。

 分かってる―――けど。

 

 始めの一文に目が釘付けで先に進まない。
 

 いや、先に進むことを拒否している。
 
 目が、体が、そして心が、真実を知ることを恐れて拒否をする。




―――このままじゃ、だめだわ。

 理花は目を閉じて、軽く頭を左右に振った。
   


―――雄一が言いたいことを、私は知らなくっちゃ。

 自分に言い聞かせて、理花は瞳を更に強く閉じる。
 
 そして深呼吸をする。

 

 気持ちが落ち着くまで、何度も深呼吸を繰り返した。
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