雪解けの頃に
 今回の治療は極力薬に頼らず、体力の回復を優先させようと雄一に勧めたらしいのです。

 しかし、本人が頑として譲らなかったそうです。

 おそらく雄一は3月に帰国する理花さんのことを、少しでも万全な体で迎えにいってあげたくて、焦っていたのだと思います。
 
“このところ病気のせいで、やけに疲れやすくなった”と、夏の終わりごろに洩らしていたのを記憶しています。

 だから、無茶を承知で強引な治療を望んだのでしょう。』



 理花はその事実を知って、愕然とした。

―――私が出張中にも何度も電話でのやり取りがあったのに、雄一は私にそんなこと一言も言わなかった。
 

 ……違うわ。
 
 雄一は言わなかったんじゃない。

 
 言えなかったんだ―――私が心配するから。

 それなのに、私は気付こうともしていなかった。


 理花は鈍感な自分を責め立てた。

 しかし、さすがこの母にして雄一ありとでも言おうか、理花が気落ちするのを見計らって、気遣う文章が記してあった。


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