雪解けの頃に
「色も、手触りも、すごく素敵だけど、それはそんなに重要じゃないの。

 雄一が送ってくれたマフラーだから嬉しかったんだよ」


 お世辞なんかじゃない。心からそう思ってる。


 素直に感想を言ったら、

「……ありがと」

 って、小さく言った雄一。


 きっと、このマフラーみたいに真っ赤な顔をしてるんだろうな。

 想像したら少しおかしくなって、くすくすと笑ってしまったっけ……。 




―――その時は普通に会話もしていたのに……。


 ううん。きっと雄一のことだ。
 
 私に気付かせないように、平気な振りをしていたのかもしれない。

 今にして思えば、自筆のクリスマスカードの文字も頼りなかったかもしれない。

 会話がいつもより途切れがちだったかもしれない。

“このあと予定があるから”
 
 と、彼のほうから切り上げられた電話は、もしかしたら話し続けることに疲れを感じたからかもしれない。

 私に気付かれる前に、電話を切りたかったのだろう。



「ごめんね、雄一。気付いてあげられなくって……」

 そばにいてあげられなくってごめんね。 
 
 何もしてあげられなくってごめんね。
 
 
 理花は心の中で何度も雄一に詫びる。


「い……けない、手……紙を、読み続けなきゃ……」
 
 それが、今の理花に出来るすべて。 
 

 止まっていた視線を動かし始めた。


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