雪解けの頃に
 私は病院からの帰りに、雄一に指示された店に出向きました。

 店員に雄一の名前を告げると、店の奥から綺麗な布にうやうやしく載せられたブローチを持ってきてくれました。

 アメジストがついたシルバーのブローチです。

 聞けば、この店のジュエリーデザイナーはオリジナルの1点物しか作らず、半年もの予約期間が必要なのだとの事。


 今回はデザイナーの体調不良によって作業が大幅に遅れていたんだそうで。

 でも、昨日無事に納品されたということです。

 店員が言っていました。

“このブローチをご注文された雄一さんという方は、よほどお相手のことを大事に思っているのでしょうね。

 実は、他にもご予約された方が数名いるのですが、どうしても間に合わなくて、受け渡し日を数日延ばしていただくお願いの電話をしたんです。

 納期に間に合ったのは雄一さんだけなんですよ。

 雄一さんの想いの深さが伝わりますね。”

 そう言って、小箱に詰めたブローチを渡してくれました。』



「うっ、うう……」
 
 それを読んだ理花の口からは、たまらず嗚咽が漏れた。


< 33 / 43 >

この作品をシェア

pagetop