雪解けの頃に

2】彼氏として

『話は少しさかのぼりますが、年が明けて外泊から病院に戻ってきた時、私は雄一に

 “理花さんに少しでも病状を話しておいたら?何も知らないのは可哀想ではないかしら”

 と言った事があります。

 後から聞かされるよりも、それらしく匂わせておけばショックも少ないだろうと、私は思ったのです。

 
 そうしたら、ものすごい剣幕で怒られました。

 横にいた主人は、雄一のあまりの形相に後ずさりしたくらいです。

 普段は温厚なあの子が、親に対して声を荒げたのは初めてのことです。
 

 “理花に本当のことを言ったら、自分のところに戻ってきてしまう。

 彼女は弱った僕を平気で見捨てられるような人間じゃない―――7年も付き合ってきたから、よく分かる。

 自分のことは二の次にして、僕のところに一目散に駆けつけてきてしまうような人なんだ。

 
 理花はニューヨークの本社で働くことを、入社当時からずっと夢見ていた。

 とても真剣な顔で、何度もその話をされたことがあるよ。

 あと2ヶ月もすれば彼女は無事に任務を終えるんだ。

 
 それを邪魔することは出来ない。 
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