雪解けの頃に
 理花の彼氏として、彼女の夢を妨げることは絶対にしたくないんだ”

 
 と言う雄一の顔は、それはそれは怖いものでしたよ。


 その時に、
 
 “理花が帰国するまでは、自分にこの先何があっても、彼女にだけは決して伝えないでくれ”
 
 ということも頼まれました。


 そして一通の手紙を預かったのです。

 一枚目に同封した手紙のことです。

 自分の葬儀を終えたらあなたに送るように、と言うことでした。

 あの子は既にすべてが分かっていて、覚悟していたのでしょうね。


 息を引き取る間際、雄一はうわごとのように理花さんを呼んでいました。

 そして、しきりに“ごめん……”という言葉を繰り返していたんです。


 最後の幕引きは実にあっけなく、静かに目を閉じて、それこそ眠るように雄一は逝ってしまいました。

 あの子は最後の最後まで病魔と闘い、やつれきっていました。

 薬の副作用で髪は抜け落ち、痩せ細った雄一は別人のようで、元気だった頃の面影はほとんどありません。
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