天体観測
「何や。わかってるやないですか」

「何がだよ」

「自分の気持ちですかね。司さんなら『そんなの知らないよ』とか言いそうやったんで」

「うるさいよ」

「そうそう。そんな感じです」

隆弘は腹を抱えて笑った。何が可笑しいのかわからなかったけれど、僕も隆弘に触発されて、笑った。

「でもな、隆弘。俺は約束守れそうにないよ。あんなひどいことを言って、許してもらえると思えない」

鼻の頭に何かが当たった。見上げると、空が黒い。急になのか、やっとなのかはわからないけれど、とりあえず雨が降ってきた。

「今日はよく雨が降る日だ」

「みたいですね」

雨は荒地に凄まじい早さで吸収されていく。まるでスポンジみたいに。

「この雨は恵美で、この荒地は俺か」

「何ロマンチックなこと言ってるんですか」

「いや、なんとなくそんな気がしたんだ」

僕にはわかっていた。きっとそれは間違ってなんかいない。この荒地が何年、何百年雨を吸収できるか、それは僕にはわからない。けれど、この荒地はいつか必ず雨を吸収できなくなる日がくる。僕にはわかっているんだ。

荒地が徐々に黒く濡れていく。僕はそれを見るのが歯痒くて仕方がない。
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