天体観測
「恵美は、司さんのように強くないんですよ」

「俺だって強くはないさ。ギリギリのところで踏張ってる」

「そうかもしれへんけど、少なくとも恵美よりも強いですよ」

雨が激しさを増し、雷が轟く。夢だとわかっているのに僕の体は強張り、ゆっくりと弛緩していく。

「近いな」

「ですね」

「ここで雷が直撃しても、俺は死ぬのか?」

「そんなことで死んでしまうんやったら、この前も死んでましたよ」

「そうだな」と僕は笑って言う。けれど雨が止むことはなく、雷は勢いを増す。そのせいか、世界が歪んで見える。

「また、あそこに行けないのか?」

隆弘は頭を抱えて、過剰に悩む。でも答えなんて最初からわかっているのだろう。

「ここは俺の中じゃないんですよ。司さんの中なんです。だから行けません」

「でも、ここはあの閉ざされた空間によく似ている」

「それは司さんがそうイメージしてるからでしょう?」

「それはつまり今からでも変えられるってことか?」

「強く願えば、あるいは」

僕は目を閉じて、強烈に空の遥か上を、星を思い浮べる。そして心の中でゆっくり十数えて、目を開けた。

「残念だ」

「まあ、ここは心理的なもんが大きく作用するんでしょう」

雨が僕の頬を痛いくらい殴っている。

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