天体観測
「なあ、隆弘。俺はどうしたらいい?」と、僕が聞く。隆弘は不思議な笑みを浮かべる。

「どうしたらいい?ですか……」

「わからなくなってきたんだ。今までやってきたことはお前や恵美のためだと思ってた。けど、恵美にあんなことを言われても、俺は反論できなかった。それはつまり俺自身もそう思ってたってことじゃないのか?じゃあ今までやってきたことは何なんだ?ただの偽善じゃないか」

「そんなことないですよ」と隆弘が言う。その何一つ具体性のない曖昧な言葉が余計に僕を苛立たせる。

「何がないんだよ。そんなことって何なんだよ。俺はどうしたらいい?誰か教えてくれよ。隆弘、教えてくれよ」

隆弘は少し困った顔をする。そして雨はそれを雨と呼ぶことが困難なくらい激しくなる。

隆弘が僕から離れていく。僕はそれを黙って眺める。僕からはもう隆弘の姿を確認できない。

「やっぱり、司さんらしくないですよ」

何処からか聞こえてくる声に僕は返事をしない。隆弘が続ける。

「考えるだけ無駄なこと考えてますよ。いつもの司さんならそんな石ころ、気にもせずに通り過ぎるでしょう?」

「石ころ?これのどこが石ころなんだよ」

「じゃあ司さん。恵美は司さんのために犯人捜してたと思いますか?」
< 118 / 206 >

この作品をシェア

pagetop